乗るたびに思う、普通の感覚だったらこのクルマをファーストカーにするのは無理があるなと。
路面の状態がモロに跳ね返ってくる固いサスやタイヤ、違和感ギリギリレベルで離れてる各ギア比、それに組み合わさるは滑らかな回りをするターボエンジン。
ちぐはぐだ。色々とちくはぐで性能が低い。誰がこんなの買うんだと。誰がどなたに薦めるだと。誰が乗り続けてるんだと。
…オレだよ。オレオレ。
あのね、もうそういうのじゃない。そういうのって何って言うと、ラクとか他人ウケの良さとか積み上げたバックボーンとか、もうどうでもよくなる。エブリイのハンドル握れば。
だって楽しいんだもん。穴ボコ通れば全身がガタガタ震えて、少しでも舗装が悪ければゴロゴロとタイヤが鳴く。そこらのスポーティーモデルなんて目じゃないくらい、マジもののロードインフォメーションってヤツをこれでもかってほど体感出来る。
しょっちゅうケツが揺れ、しょっちゅう背中や後頭部がシートに押し付けられる。ここまで正直だと惚れ込んじゃうよ。
大体うるせえのが何なんだ、疲れるのが何なんだ。走ってるのか走ってねえのか分からない方のがもっとイヤだね。
ギアボックスだって数千キロ走ってもゴリゴリに固くて、真ん中のニュートラルへ戻る力が弱い。昨今あるトランスミッションの良さは皆無だけど、いかにも鋼鉄を動かしてる感じがビシビシ伝わる。
変速はテンポ良く…とはいかず、1から2が近く、3から4が離れている。なので各ギア変速ごとにおけるアクセルの踏み方には少し神経を使う。
でもね、スマートに走るだけがクルマじゃないとオレは思うんだ。エンジンのケツをひっぱたいて音に耳を傾けながらゴリッと次の加減速に移るような、原始的で感覚的なクルマが存在してもいいと思うんだ。
頭と身体使って丁寧に操作して走る、そんな現行車あといくつある?逆に希少だよ、ここまでドライバーにハッキリ何かを訴えてくるクルマは。
コッチの気持ちばかり押しつけて適当やってたら、前にも後ろにもからっきし進まないんだから。でも乗れば乗るほどゲームみたくて楽しいんだから。意志疎通、コミュニケーション、エブリイにはそれらの行為たちが他より密接にある。
極めつけはエンジン。良く回るしパワーも扱いやすい。でも何よりイイのが搭載位置がケツの下だということ。座るたび笑っちまう、バイクかよと。
それだけ近いおかげもあってか、とにかく音がドカドカ入ってくる。ターボのキュオオオという活動音も聴こえるあたりかなりの本格派だ。
さすがに振動まではダイレクトに拾ってこないが、長時間走ってると排熱がシートを伝う「セルフシートヒーター(温度調整一切ナシ)」が発動する。
対策品はいくつかあるが、ボンネット搭載車のような快適さにはならない。諦めるか、根性で乗り切るか。
ちなみにオレはさっきも書いた通り「バイクっぽくていいなぁ」と思って乗っている。どちらでもない、第3の何かだ。
また、乗り味とは別に気付いたこともある。
あのね、日本が大きく感じる。
スポーツカーやSUVだと何とも感じない道でも、エブリイだと色んな情報が入ってくる。その中でも特に見えてくる景観だよね。死角が少なくて、穏やかに流れていく。
それは全方向に開口の広いガラスを備えてること、シートの座高が高いから見通しがすごぶる良いこと、軽だから加速が遅いこと、だと思っている。
そのうえ身体が小さいのが効いてる。色んな道や色んな場所に突っ込めるからクルマ越しで様々な街の様相が細かに入ってくるのも要因としてデカイ。
住宅街、繁華街、田んぼ道。様々なケースに出くわしてもストレスフリーに近い状態で走れることが、日本の大きさの限界を引き出していると感じている。
強いて行けない所って言ったら機械式の立体駐車場くらいじゃないかな、高さ制限的な問題で。
…ひとことで言うとエブリイをマイカーにするって「ゲームの難易度をむずかしいにする」ことと一緒なんすよ。
快適に走って、手間無く最短行程で辿り着いて、明日へ疲れを残さない。そういう普通に飽きてから選ぶクルマだ。
特に何らかの体験で「日本なら自走でどこでも行けちゃうな」って思ってしまうと、どこ移動するにもあまり楽しくなくなっちゃうんだよね。県境をいくら跨いでも「ココ行ったなぁ」のオンパレード。
そうなるともう、道のりを工夫するしか無い。そのときパッと出てきたのは下道オンリーで旅をするか、乗り物のグレードを下げるか。その両方を選べるのがオレにとってエブリイだったから選んだってワケ。
だから車体性能の低さや、マニュアル操作の煩わしさや、むずかしいを楽しめる。最初にも書いたけど、普通の感覚の人は乗らない方が良い。どうしてもな理由があって乗るクルマだ。オレだって日本中回ってなかったら買わなかったもん。
当たり前だが、ラクを出来るならラクの方が良いに決まってる。でも、それだけが良さじゃないという思いが強いなら買ってもいいんじゃないですかね。