大根おろし

つい先日、大根おろしを作っていた。

おろし金を使って皮を剥いた大根を擦る、リビングで黙々とやっている。みるみるうちに背が低くなっていく姿を見て思い出す、「あぁ、昔よく食べてたな」と。

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 大きなうねりは中3の秋に起こった。部活も引退し、学年のみんなが「どこの高校に行く?」なんて進路を意識し勉強するなか、オレは家で大根を擦っていた。

前々から好きではあったが、部活から帰るころには野菜室を開ける気力が無いほど疲れ果ててた。それが学校から帰れば夕方、晩飯まで時間が沢山あるこの状況、もちろん擦った。

時には調子に乗り過ぎて親に「こんなに擦ってどうすんだ!」と叱られたときもあった。そんな時は1人ご飯の上にかけて食べてた。美味かった。

また時にはクラスメイトに「あんな怖い顔して放課後家で何やってんの?」と言われたこともある。実家の様子が学校から見えるレベルで近いので、下校途中に姿を見かけたんだろう。

恥ずかしかったので「版画彫ってたんだよ版画。オレ美大目指してるからさ」とテキトーに答え、その日はおろし蕎麦を食べた。美味かった。いつもより1つ奥まった部屋で擦った以外は何ら変わりは無かった。

 

そんな毎日を過ごしていく中で身体の変化が起きた。あれは高校入りたての体力テストでの出来事。

端的に言うと握力とハンドボール投げがクラストップ5入りしてた。

「何かスポーツやってたの?」と目をキラキラさせてた体育教師に「大根おろしてました」とは流石に言えなかった。だって大根おろしだもん。スの字も合ってない。

ちなみにその年の体育は大暴れだった。ソフトボールは打率8割でほぼ長打。バスケではシュートがよく入った。中学時代は通年平均より下だった成績が、シーズンによっては上の下くらいまで飛躍した。大根おろしのおかげで。

社会人なっても続く。機械の修理工時代にペール缶満タンの液体を零さず一定の場所へ移し替えるという仕事を数人でしていたのだが、オレだけ回転が早かった。

毎年半日掛かりでしてた仕事が、その年は他の現場のヘルプに回れるくらい作業時間が短くなっていた。大根おろしのおかげで。

バイクに乗り始めてからも続く。クラッチレバーの重さに負けず、アクセルの頻繁な開閉で手首を痛めることはまず無かった。

後々知り合いに「デタラメだ!そんなやり方じゃいつか故障する」と負担の少ない方法を教えてもらった。それまで何とも無かったのも大根おろしのおかげだ。

つまりですね、大根おろしを擦ると学校の成績も上がるし、仕事の効率化にもなるし、バイクが楽しく乗れるんです。

学生や社会人、老いへのリハビリ、安全だから誰でもいつから始めたっていい。食べて健康、動いて健康。1手にかつお気軽に出来るのは大根おろし以外にあるだろうか。スゴいんだぜ大根おろし

 

ちなみにオレはこの生活を5年でピリオドを打った。

だって飽きちゃったんだもん。味に。