オレの友人でアクアリウムとホームシアターとオーディオに凝り、大の声優好きで出演するライブやイベントをくまなく追っかけるという、色んな意味で凄みを感じる人が居る。
そんな彼とは一時期は毎日のように連絡をしていて、小学生並のバカみたいな話からディープな話題まで言葉の投げかけ合いに事欠かなかった。
「ワーフェデールはバイクで言うとトライアンフだな」
と、こだわりの強い同士にありがちな一方通行の会話は少なく、むしろお互いの趣味を溶け合わせた内容で柔らかく話を進めてくれる、ひとことで表すなら紳士だ。
(ワーフェデールはイギリス、JBLはアメリカのオーディオメーカー。)
そして2年くらい前、実際に家へお邪魔したときの驚愕たるや。淡いライトに照らされながら様々な水草が漂う綺麗な水槽、4方向スピーカーで映画を見たときの没入感。
本格オーディオの音の立ち方聞こえ方、音量小さくても奥底に埋もれがちな音までしっかり鳴らしてくれるのには驚いた。
本人も「最高の環境」と言い切るくらい豊かな空間、もう正直なところ暮らし方がとても同い年には思えなかった。
そんな彼と未だに忘れられないやり取りがある。
確かあれは家にお邪魔する数ヶ月前、彼は「手持ちが本当に無くなった」と嘆いていた。そして次の日の電話で「オーディオ用品たくさん買っちゃった〜」と嬉しそうに話していた。
「お前、支払い大丈夫なの?」と心配すると
「だってさっき欲しくなっちゃったんだからしょうがないですよ、どうにかなりますよ。」と軽く返された。
…鳥肌が立った。その後も「音質に深みが」とウキウキで話す様子がより恐ろしさを増した。あまりにも向こう見ず、コイツはカネにヤバいヤツだったんだなと。
しかし後日さり気なく様子を聞いてみると、毎月しっかり払う物は払っていて、今まで1回も消費者金融のお世話にもなってないらしい。
流石に貯金はそれ相応らしいが、幸福と支出のバランス感覚が上手過ぎて友達ながらに強く尊敬をし、また状況も知らず勝手に人を蔑んだ己の思考の固さを恥じた。
最低限を置いて、今の自分を全力で楽しむ。
近年、というか主に身の回りでギャンブルやソシャゲなどで文字通り身を削ってる人や、特別な用立ても無いのに貯金することへ注力する人が多い。
歯止めが効かず自爆する人、過程が目的になってる人。別に他人の生き方を否定するワケじゃないが、それでは何の為にカネを稼ぎ何の為にカネがあるのかは考えさせられる。
そんな「こうなるべきではないかな」はありふれてたけど、まさかこんな近くに「こうあるのもいい」があったとは。
彼には在りたい自分がいつもあり、その為に毎日を過ごしている。それも理想のゴールへ突き進むだけじゃなく、足元にある生活も疎かにしていない。
偉そう千万は承知だが、生きたカネと時間の使い方ってもしやこういうことなんじゃないかって思えた。それだからか凄み感じたのかもしれない。
で、そういう人を見てオレはどう思ったか。勿体ぶらずに「やれるならやっちゃおう」って思ったね。
ジジイなったらゴツいセダンに乗る、コレが続いたらアレしよう、もうそんな回りくどいやり方は辞める。いつ何時自分がどこまで身を振れるか分からんし。ジジイで大貧乏かもしれんし。
だから20代でもクラウンに乗るし、ブログが続かなくてもカネが貯ればカメラとパソコンを買う。
似合う似合わない、向いてる向いてない、遅い早いなんかどうでもいい。その時やりたいと思ったことはメドがたったらすぐやる。遠い未来は誰も保証はしてくれないし。
今でも彼とは連絡を取っている。「このパーツで今度こそ最高の環境が」と留まることを知らない。
「またどこぞのワインみたいなことを」と口では腐すが、毎回ワクワクしながら聞いている。
オレもいつかはそっち側、見た聞いた誰かをワクワクさせるくらい生活を楽しみで埋め尽くしたいと思えたこの頃でした。
おしまい。