ツーリング・ケイターボ

宣言も明けたので、いっちょ県跨ぎすっかとエブリイに乗った。

天気は快晴、シートベルトを締めて縦横にだだっ広いフロントガラス越しに空を眺めながら慣れた手つきでエンジンを掛ける。

左手足でギアボックスの調子を確かめる。相変わらず鉄みたいに硬い。右足でチョイチョイと過給機付きエンジンのご機嫌を伺う。相変わらず回り方は滑らかで軽快だ。

クルマはいつも通り。でも久しぶりの隣の県。30分、この何ヵ月走り倒し見慣れ道を通る。とあるT字路を右折し県つなぎの橋へ進む。

ビカビカのタンクローリーを前に回転を抑えてポロポロ走る。エブリイの四角い顔が鏡面反射し「これじゃ旅というより業者の出張だよな…」と思いながら「いや、ケレン味の無さが逆に味だな」と自問自答する。

そう、ドライブには余裕がある。クリエイターがインスピレーションを受けたり、会社員が癒やしや刺激を求めたり、オレがどうでもいいことに思いふけるのもソレに余裕があるからこそ。適度に与えられた空白は生活を自分色に変え、強くも豊かにもする。

…なーんて考えてる間に橋が終わり越県する。強制ではなかったから罰則もクソも無いが、我慢した甲斐があった。気分が良い。やっぱりやるなら大手を振るってアクションした方が健康的だ。

程なくして前がバイクに変わっていく。世田谷ナンバーのカフェレーサー。右折合流待ちで華奢なナンバーステーと両出しのマフラーがプルプル震えてる。まるでこうなる日を待ち侘びてたかのようだ。オレと同じ。親近感。

オーディオを消し、右窓をちょっと開ける。ドカドカドカと一歩間違えたらヤン車みたいな単気筒音が耳をつんざく。よっぽど鬱憤が溜まってたんだろう、そう思うことにしながら窓を戻し道を別れる。

舗装途中の道をスクーターに乗る老人が上下にピョンピョン暴れだしたり、タイヤを限界までハの字にした紫色のクラウンを見たり、車線を余裕でハミ出してる下手くそハマー乗りに出くわしたり、地元に比べて飽きなえ街だなと思ってるうちに目的地に着いた。

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ちょっとしたヒマや、何かの帰りに遠回りしてでも来てたこの場所。

折角だから外に出て写真を数枚パチパチ撮ってると、風に乗って防波堤向かいの潮が顔に掛かった。

 

気持ちいいな。

 

シャツで顔を拭きながら思わず呟いてしまった。

何度も来て、道も覚えてて、楽に走れるクルマで走ったけど、来て良かった。

思い出は良いイメージのままに、その後は寄り道せず安全に、多少行きよりもタービンを効かせて帰りの途につく。

すると信号待ちの対向車線に大型ネイキッドに乗ったアライヘルメットなイエローコーン集団がぞろりと。恰幅の良さからして、きっとオッサンだろう。

シールドを開けて身体を後ろに捻りながら何か話し込んでるようだ。こんなクソ暑い中厚ぼったい上着を着てるから顔中さぞ汗まみれだろう。

しかし、どこか楽しそうではある。信号が青に変わりすれ違うのを横目に「あの歳までああやるのも悪くねえな」と思いながら「オッサン達に負けてらんねえ」とバイクでの再来を誓う。

…やっぱり余裕から出る自問自答は止まらない。バイクだけじゃない、あえてエブリイで旅をする良さを知った昼間のことだった。