エブリイに3年乗って

便利。やっぱ便利。途方もなく便利。

イヤ、途方はある。積めない物もあるから途方はキチンと存在する。

とは言っても日常生活における大概は積めるので、途方もなくに近い途方がある。0.8の途方の無さ。人によっては0.6かもしれないが、オレ的には0.8。

そしてこの数字に100を掛ければ80。もしこれがテストだったら通信簿は5段階中5。やったね、他の教科も頑張れば学校から推薦状貰えるかもね。

…いやね、最初に書き出しをどうしようかと思ったの。で、エブリイの存在意義と云えば1に「積載」。ということで書いてみた。

ちなみに「軽の割に」という高みの見物感は感じられない。どっちかっつーと「コレってホントに軽だよな?」という方が正しい。マジでスゴい。

ウソだと思う人は「エブリイ トランポ」で調べると分かってもらえる。トランプではなく、トランポだからね。トランスポーターの略だ。同名のアクション映画もあるが、酩酊状態で観るとちょうど良いから興味のある人は観ればいいんじゃないですかね。

エンジンはもうブンブンよ、ブンブン。新車からのってるけど、使えば使うほど気持ち良くなってくる変わったエンジン。

シュルシュル回るエンジンに繋がってるスロットルをガツッと踏み込めば、後ろ足がドッと蹴っ飛ばして前足に軽快感が増す。「そういやFRだったわ」とか思ってると次のギアがウズウズ待ちわびてる。そりゃそうかと左手足を忙しなく動かす。 

そんな風に基本何しても面白いが、特にお気に入りなのがタービンの吸気音で車内が騒がしくなるときだ。

加速中にしょっちゅうキュオオオオオ、キュオオオオオって助手席あたりから鳴いてるの。「そういやターボだもんね」ってな具合で公道許容のスピードで燃焼の二重奏を存分に楽しむ。これはローギアード過吸器付き660ccの特権だよね。

実際の加速もターボなだけあって速い。ATのコンパクトワゴン並みに速い。つまりはクラスオーバーの動力性能と言ってもいい。

そのうえフロントガラスの広さとボンネットの短さが相まって感覚的にも速く感じる。

文字や数字だけじゃ表せない視覚や聴覚や触覚へ濃密に訴える、乗らないと分からない隠れスポーツ味が詰まってる、といったところか。

 

車体は上が緩くて下が頑固というチグハグ具合。見ての通りスライドドア付き5つの大開口で背高ノッポという、便利便利の極み。その代わり剛健のカケラもない。

しかし、サスとタイヤは硬い。特にリアが。新車当時の悪い硬さが取れても結局硬い。最大350kgの耐荷重に対応したためか、段差は段差としてアスファルトの荒れは荒れとして音と衝撃が全身にしっかり響いてくる。

いわゆるスポーツカーで味わう「締め上げられたダイレクトさ」というより、「使命が故のダイレクトさ」というロマンもクソもない仕方なさと安っぽさが全面にある硬さだ。

しかし、硬いは硬いだ。そして本当に安く、商用なのでパーツ本体は頑丈に作られてる。なので何にも気にせず思いっきり遊べる。仮にブッ壊れても「いやはやゴメンねゴメンね」と色んなルートを使えば、大概の部品代をどうにかして済ませられる。

だから精神的にも金銭的にも余裕が生まれやすく、タイムを追い求めない「ごっこ遊び」なら充分楽しめる。

そういう意味では上半身における横風の弱さなんかも「法定速度上の演出」として飲み込める。一回だけ120km/h巡航したことあるけど、文字通り手に汗を握る中々のスポーツ具合だった。

でもまあこのエブリイにスポーツというワードも案外遠からずな所もあって、軽自動車で最軽量かつ最大馬力のケータハムセブンとパーツ共用してる部分があるんだよね。

セッティング等々はもちろん違うけど、元は同じ。あの時見た色褪せた佐川や日本郵政、ドアに凹みだらけの業者さんのエブリイにもロードスターなロードセーリングなファンドライブなスピリッツが幾分か入ってるのだ。

だからエブリイもホットハッチならぬホットトランポって言って良いんじゃないかね。なんか温度を下げさせない優良な出前グルマみたいな名前になっちゃうけど。

 

こんなように頭も感覚も、良くも悪くも「うわぁ、うわぁ」と言いながら走らせる楽しみがあるのがエブリイの良さだ。

ストロークやレスポンスを凝視して「うんうん」と自分の要求を1つ1つ満たすようなアーバン的生き方より、走れるには走れるけど「なんじゃこりゃ」と1つ1つ紐解き己の感覚と擦り合わせてくカントリー的な生き方をしてたり目指してる人ならば、これほど良いクルマは無い。

 

まあ、ここまで言っといてなんというか、ほとんどの乗用ドライバーには合わないってことだな。クルマは金や時間をかけてでも、ラクだったり速かったりカッコいい方が良いに決まってるもん。