晴れの日曜日。こんな出掛け日和は無いと思いながら朝飯を食べるのだが、チンしたご飯からブチギレてんのかってくらい湯気が立ってる。
そう、今日は寒い。
換気とは名ばかりな道路側に位置する窓の隙間から聞こえてくるのは通り過ぎてくバイクの音。
「ああ、こんな日でも乗る人は乗るんだな」そう思った時点で寒さに負けている。
「オレも数年前はアッチ側だったのにな」と羨ましながらも「それだけが面白いワケでもないんだよな」と食器を片付けてから駐車場へ向かう。
そう、今日はクルマだ。
外気を守る四角い箱で囲まれ、内気をコントロールするエアコン搭載、エンジンハンドルシート付き。寒さを忘れてどこまでも走れる魔法の乗り物。
…バイクを所有している身として甘っちょろい選択かもしれない。でも今日のオレにはコレが一番なんだ。乗りたい時に乗りたい物に乗る。それがクルマだっただけだ。
腹は決まりキーを回す。元気に一発でかかるが、季節柄コールドスタートは長く騒がしい。
オレのクルマはどういうワケかエンジンの暖まりが遅い。回転が落ちるのに4分くらいかかる。
ちょうどリビングへ戻って、ケトルで湯を沸かして、マグボトルにブチ込み、白湯を作って家の戸締まりする時間と同じくらいなので生活として全く問題ない。
最初はシステムが煩わしく古臭いなと思っていた。でも何回もやってく内に「まあ、そういうもんだ」と受け止め、それすらを面白がる自分になっていた。
人間の適応力恐ろしや。何事でも無いようにシートへ腰掛ける。準備運動を終えたエンジンは右足の操作にレスポンス良く働く。今日も機嫌が良い。
敷地を抜け、国道に接する丁字路へ向かう。
左に行ったらただっ広い平野を突っ切る真っ直ぐ道。
右に行ったら川と街と店のある文化圏。
どっちにしようかと停止線前で減速してると、重大なことに気づく。
「走る目的ねーじゃん」
今日を振り返れば、バイクの音に身体が反応して気の向くままに、果ては嬉々と道路を走っている。
「なんだ、まだアッチ側の感じあるじゃん」
今更だが「アッチ側」というのは文で説明するのは難しい。
強いて言えば、その後エアコンを切ってガラスをバイザー分だけ下げて、左へ曲がった心意気がアッチ側だ。
「まあ、昼前には戻ってこよう」
なんとなく、どこまでも、飽きるまで。
そんなフニャフニャした午前中のはなし。